『アニメAG第97話の隙間』4(051017)


「うっ……ぐぅ…ッ!」

げほっ、げほっ、と
サトシは堪らなくなって思い切りむせ込んだ。
お腹が痛いはずなのに、頭も一緒になってガンガンと痛み出す。
思い切り打った背中も、ズキズキとなかなか止まりそうにない。
体をかかえこんでいないと、どうかなってしまいそうだ。

苦しそうなサトシを見下ろして、
ホムラは少しだけ気持ちが晴れる思いだった。
まぁ、当然の報いだ、と自分を正当化する。
散々我々マグマ団をコケにしてくれたことに対してのな、と。

「これで少しは分かったか?
我々に必要なのは藍色の珠だけだ。
今、珠を持っているあのピカチュウは我々に必要だが、
裏を返せば、珠を持たないキサマは必要ではないということだ。
今すぐキサマを海に突き落とすこともできるんだぞ。」

小僧、例えばキサマがどんなに嫌な思いをしたとしても、
我々マグマ団はそれをなんとも思わないのだ、
…ホムラはそのような事を言いたくて、
サトシを脅そうと言葉を並べたつもりだった。

ところが、この少年は何を考えたのか、
ホムラの予想とは違った反応を返してきた。

「…藍色の珠を持ったピカチュウは必要だ、って
言ってたけど…、…ごほっ……。
…ピカチュウは、
…藍色の珠が体内から出てきた時は、
ピカチュウはお前たちに必要じゃなくなるってことだろ。
オレと同じように、ひどいことをするかもしれないっていうんだろ!」

ホムラにとって、この言葉は意外だった。
自分は少年を恐がらせようとしたはずだ。
しかし、少年の言葉から、自分の身の安全を心配するといったようなものは
微塵も感じられなかった。
一体なんなんだ? こいつは。

「…あぁ、まぁ…そうなるな。」

とりあえずここは、適当に答えておこう、とホムラは考えた。
すると途端!

「ピカチュウは!
絶対にお前らなんかに渡さないッ!!」


少年が突然叫んだかと思うと、
ガバッと体を起こしてグラエナたちの間を飛び出し、
あっという間にホムラの横をすり抜け、
ピカチュウのもとへと駆け出した。
ピカチュウ! と、大声で呼びかけながら…。

ホムラは、一瞬のことに体がついていけなかった。


…本当に、一体あいつは、なんなんだ?

体中の痛みで、まだ自由に動けるほど回復してなかったはずだ。
それに、「海に突き落とす」とまで言った脅迫に、全く窮していなかった。
…聞いていなかったのか?
聞いていても、分かっていないのか?
(分かっていないのなら、よほどのバカだが…。)

サトシが、また気を失っているピカチュウをそっと抱きかかえるのを、
ホムラはじっと見つめていた。

(へたすれば、自分の命が危ないというのに…。)
(なんでそんなにも必死なんだ?)

(どうしてそこまで、ポケモンに一生懸命になれるんだ?)


バタバタと騒がしい音が近づいてきた。
ようやく到着した、ホムラの部下たちだった。
彼らはホムラとサトシとピカチュウを確認すると、
慌ててホムラの元へと駆け寄る。

「隊長!」

呼びかけられても、
ホムラはサトシを凝視したままだった。

「申し訳ありません。
今すぐあの少年とピカチュウを確保します。」
「少年は例の倉庫部屋に連れて行き、ピカチュウは…」

言いかけた団員の言葉を、ホムラは遮る形で無理やり止めさせた。

「いや、いい。
…ピカチュウもあの小僧と一緒に閉じ込めておけ。」

「…は?」

あっけに取られた部下の、間抜けな返答が、
ホムラを少し苛立たせた。

「聞こえなかったのか?
同じ部屋で良いと言っている。
マツブサ様には、私から伝えておく。」

「…はっ、了解いたしました!」
少々腑に落ちなかったが、
団員はホムラの機嫌を損ねないようにと素直に従うことにした。
そして抵抗する少年を捕らえると、
もと来た道を、逆戻りした。

二度と離すまい、とピカチュウをガッシリ抱きかかえたサトシの後姿を、
ホムラは見えなくなるまで見つめていた。
ハルミ 051017

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