あっ! 「こんなところにいたぁー。」 「! ハルカ、どうして…」 サトシを探して追いかけたはいいけれど、 一度見失った人を探すのって、結構たいへん。 アゲハントにも一緒に探すのを助けてもらって、 ようやく森の中の、大きな樹の枝に腰掛けてるサトシを見つけた。 なにもそんな高いところに登らなくたって…。 こういうとき、サトシの考えることって分からないかも。 …でも。 今は、ちょっと…サトシの気持ち、分かりたいなぁ。 「ねぇー、私もそっちに行っていーい?」 「いいけど…ハルカ、来れるのか?」 むか。なんですってぇ? 私だって、サトシと旅をして長いんだからね。 これくらいのこと、できなかったら今頃どこかでおいてけぼりよ。 どくん。 え…? 「どうした?ハルカ。やっぱり無理なんじゃ…」 「う、ううん、違う違う。行くから待ってて!」 なんだろう、今の…。 一瞬だけ、すごく、血液が熱かったというか… と、とにかく、今は木に登ろう! よいしょっ、と。 うぅ、この樹の幹ってゴツゴツしていて登りやすいのは良いけれど、 トゲみたいなのがちょっと痛いかも…。 悪戦苦闘すること数分。 よぉーし、あと少し。 「ほら、ハルカ。」 サトシが手を伸ばしてくれた。 「ありがとう、サト…きゃっ!?」 「!! 危ない!!」 手を掴もうと、気を緩めてしまったせいで、 私は左足をはずしてしまった。 ‐落ちるっ!‐ なんの解決にもならないのに、反射的に目をぎゅって瞑ってしまう。 そして次にくる衝撃に備えて身をかたくして… って、アレ? 痛く…ない、かも? ちょっと肩がキツイ感じがするけど…?? そぉっと目を開いてみる。 ふわふわと、足のずっと下の方で地面が揺れている。 ばさぁっ、と、力強い羽ばたきがした。 視線を下から上へ見上げてみれば、そこにいるのはオオスバメ。 サトシのオオスバメに助けられて、私はようやくサトシのいる枝にたどり着いた。 バランスをとって、たたた…とサトシの近くまで行くと、 すとん、と隣に座っちゃう。 ほっ… 改めて落ち着くと、さっきの落下の恐怖がもう一度襲ってきた。 だ、大丈夫、私は今、なんともないんだから。 そう自分に言い聞かせて、ガタガタ震えだした身体を両手で抱える。 「大丈夫だったか?」 心配そうに覗き込んでくるサトシ。 それにしても、あの一瞬でボールからオオスバメを出すなんて、 さすがだなぁ…やっぱり経験の違いかも? 「…ありがと、サトシ。」 「よく考えたら、最初からこうすれば良かったんだよなぁ…。」 ごめんごめん、と頭の後ろをポリポリかくサトシ。 ううん、私がもっと木登りが上手だったら良かったのよ、と返すけれど、 まだまだサトシには及ばないんだなぁ、と内心ガッカリ。 …こんな私、足手まといにならないかなぁ…。 どくん。 あ、まただ…。 さっきから、私のココロはどうしたんだろう。 「………。」 「………。」 お互い、何もしゃべらない。 サトシは、何を考えているのかな。 そぉっと隣の顔を盗み見てみる。 じぃっと前を見つめるサトシの真剣な横顔が見えた。 「………。」 「………。」 どれくらい、時間が経ったのだろう。 タケシたちに、「すぐにサトシを呼び戻してくるから!」と言って 別れてきたのだけれど… そ、そうよ。だから早くサトシをなだめて、連れ帰らなきゃ! 「えーっと…。」 でもまだちょっと気まずくて、最初に何を話して良いか、分からない。 私が話すのに困っていると、 気持ちを察してくれたのか、サトシが重い口を開いた。 「…なぁハルカ、一つ聞きたいんだけど。」 「な、なに?」 「…ハルカはどう思う?」 「お、思うって…何を?」 サトシが何を言いたいのか、混乱気味の私はすぐにピンと来なくて、聞き返した。 そうしたら、サトシの表情がまた険しいものになった。 「さっきのトレーナーとそのポケモンのことをだよ。」 やっぱり、サトシはあのトレーナーのことを考えていたんだ。 どう思う、って…そりゃぁ、 サンドパンへの酷い態度は私だってイヤだし、 サンドパンがかわいそうだと思うし、…。 「うーん…。」 色々考えていたら、何から話そうか、迷ってしまう。 返答がおそいからか、サトシが先に話を始めた。 「オレは、…」 「オレは、許せない。あいつが、…憎いんだ。」 …驚いた。 サトシでも、そういう言葉、つかうんだ…。 「でも、オレがそう思ったとしても、ポケモンは、 …あのサンドパンは、懐いてた…」 え? そう、だっけ? うーんうーん、トレーナーの悪態ばかり気になってて、 あんまりサンドパンのことは見ていなかったかも… 「あいつが、名前を呼ぶたびに、 サンドパンは、すごく、…嬉しそうな顔をするんだ。 そうして、何度も何度も起き上がってくる。 たとえそれがのろま、とかいった言葉付きでもな。 あのサンドパンにとって…あいつは、…あんなやつでも、 大切な、トレーナーなんだ。 きっと、サンドの頃から、育ててくれたトレーナーだからなんだろうな。」 「え? サンドの頃から? どうして分かるの??」 私が驚いてそう聞いたら、 サトシのほうもびっくりした顔で私に聞き返してきた。 「どうして、って…。 あいつは、サンドパンのことを、「サンド」と呼んでいただろ? 進化しても、今までどおりの呼び方がなかなか抜け切れない、 ということは、つまりサンドの頃から育てていたって証拠だよ。」 …当然だろ、というサトシの顔を見て、 改めて、今、私はサトシのことをすごいと思った。 どうしてここまで、ポケモン‐しかもそれは自分のではなく、 他人のポケモン‐のことが分かるんだろう。 サトシにとって、ポケモンは、どんなポケモンでも、自分のでも知らない人のでも、 みんなみんなポケモンは大好きな生き物に違いないんだ。 すごいな…すごい、サトシ。 ぼけーっと感心していた私をよそに、 サトシは語り出す。 私はふと、その顔が険しいものから寂しいものに変わっていくのを なんとなく感じていた。 「そんなにサンドパンが慕ってるやつなのに、 オレは、気に食わない。 でも、オレが気に入らなくったって、 それでもサンドパンの気持ちは変わらない。 それならいいじゃないか、何も悪いことはない。 このまま、オレはただあいつが嫌いで、 あいつはサンドパンのことを罵ってて、 サンドパンはあいつのことを好いていて…」 …ねぇ、サトシ。 「……… なぁ、これって、なんだか悲しいことのように思うんだ…。」 ねぇ、サトシは、何を言いたいの? 「これは、オレ一人のわがままだってこと、分かってる。 でも……わがままなんだよ…」 …サトシ。 「どうか、あのサンドパンを、自由にしてやれないか…って!!」 ぱたり。 襟元に、何かが落ちた気がした。 ハルミ 050819
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