『wish』3(050819)


「オレ、あいつのこと、殴ってしまった。

サンドパンは、あいつのこと、好きなのに、
おれは、ただ自分が嫌ってるから、殴ってしまった。
サンドパンのこと、考えて殴ったつもりなのに、
殴ったこと、全然サンドパンのためになってないんだ。

それに気付いたのは、殴った後だった…。
サンドパンが、すごい恐い顔で、オレのこと睨んでるの、
あいつがボールにしまう直前で見えたんだ。
あいつじゃなくて、オレを睨んでたんだ。

オレはそのとき、やっと気付いた。
どうして、バトル中で気付いてやれなかったんだろう。
そうすれば、サンドパンに、悲しい思いをさせなくて済んだのに…。」


サトシは淡々と語り続ける。
どこまでもポケモンのことを想う、サトシの言葉に反応するように、
さっきから、私の瞳から落ちるものは、なかなか止まってくれない。


そう、これは、悲しいこと。
でも、どうにかして、変えるものでもない。
サンドパンは、今のトレーナーで満足している。
いや、彼じゃないとダメなんだ。
ただ、外野のサトシがそれを認めたくないだけ。
これは、サンドパンのことを想って考えていることなのだけど。


こんなにサトシは想っても、
でも、サンドパンは今のままが幸せなんだ…


サトシのわがまま…
確かに、その通り。
たとえサンドパンをあのトレーナーから引き離せたところで、
サンドパンはきっと幸せにはなれない。
これは、わがまま。


でも、幸せを願っているだけなのに、
どうして、不幸になってしまうのだろう。


悲しい…。





…あ、そうか。
少しだけだけど、今、私は分かったような気がする。
サンドパンの気持ち。
だって、サンドパンは、似ているから。


ねぇサトシ。


「私は…サンドパンは、サトシの言うとおり、
やっぱりトレーナーの存在が大切で、
もしトレーナーと離ればなれになったり、
または…置いていかれたりしたら、とっても悲しいと思うの。

だからね、置いていかれることのないよう、
どんなに罵られたって、あきれられたって、
必死に、一生懸命になって、
トレーナーについていこう、っていう気になるんだと思うな。
だからひどい仕打ちを受けても、それをものともしない、強い意志を持てると思うの。

そんな一生懸命なココロ、きっとトレーナーも分かってるよ。」

「………。」


サトシは何も言わない。
私の言うこと、信じられないのかも。
でも、私は信じてる。
信じられる。


「だから、サトシ。」


落ち込まないで。
サンドパンは、きっと一生懸命だから、
自分のことを悲しいと思う前に、トレーナーのことばかり見ているんだよ。
だから。


だから、サトシ。
どうか、悲しい顔をしないで。


どうか、…置いていかないで。


「…ハルカ?」


私は、一生懸命がんばるから。
出来る限り、足手まといにならないようにするから。





「ね、サトシ!
もうそろそろタケシたちの所へ戻ろう!」


「…そうだな。
ずいぶん待たせちゃったし…。」

あ、
ハルカ!」

「なあに?」





「ありがとうな。」
ハルミ 050819

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