「オレ、あいつのこと、殴ってしまった。 サンドパンは、あいつのこと、好きなのに、 おれは、ただ自分が嫌ってるから、殴ってしまった。 サンドパンのこと、考えて殴ったつもりなのに、 殴ったこと、全然サンドパンのためになってないんだ。 それに気付いたのは、殴った後だった…。 サンドパンが、すごい恐い顔で、オレのこと睨んでるの、 あいつがボールにしまう直前で見えたんだ。 あいつじゃなくて、オレを睨んでたんだ。 オレはそのとき、やっと気付いた。 どうして、バトル中で気付いてやれなかったんだろう。 そうすれば、サンドパンに、悲しい思いをさせなくて済んだのに…。」 サトシは淡々と語り続ける。 どこまでもポケモンのことを想う、サトシの言葉に反応するように、 さっきから、私の瞳から落ちるものは、なかなか止まってくれない。 そう、これは、悲しいこと。 でも、どうにかして、変えるものでもない。 サンドパンは、今のトレーナーで満足している。 いや、彼じゃないとダメなんだ。 ただ、外野のサトシがそれを認めたくないだけ。 これは、サンドパンのことを想って考えていることなのだけど。 こんなにサトシは想っても、 でも、サンドパンは今のままが幸せなんだ… サトシのわがまま… 確かに、その通り。 たとえサンドパンをあのトレーナーから引き離せたところで、 サンドパンはきっと幸せにはなれない。 これは、わがまま。 でも、幸せを願っているだけなのに、 どうして、不幸になってしまうのだろう。 悲しい…。 …あ、そうか。 少しだけだけど、今、私は分かったような気がする。 サンドパンの気持ち。 だって、サンドパンは、似ているから。 ねぇサトシ。 「私は…サンドパンは、サトシの言うとおり、 やっぱりトレーナーの存在が大切で、 もしトレーナーと離ればなれになったり、 または…置いていかれたりしたら、とっても悲しいと思うの。 だからね、置いていかれることのないよう、 どんなに罵られたって、あきれられたって、 必死に、一生懸命になって、 トレーナーについていこう、っていう気になるんだと思うな。 だからひどい仕打ちを受けても、それをものともしない、強い意志を持てると思うの。 そんな一生懸命なココロ、きっとトレーナーも分かってるよ。」 「………。」 サトシは何も言わない。 私の言うこと、信じられないのかも。 でも、私は信じてる。 信じられる。 「だから、サトシ。」 落ち込まないで。 サンドパンは、きっと一生懸命だから、 自分のことを悲しいと思う前に、トレーナーのことばかり見ているんだよ。 だから。 だから、サトシ。 どうか、悲しい顔をしないで。 どうか、…置いていかないで。 「…ハルカ?」 私は、一生懸命がんばるから。 出来る限り、足手まといにならないようにするから。 「ね、サトシ! もうそろそろタケシたちの所へ戻ろう!」 「…そうだな。 ずいぶん待たせちゃったし…。」 あ、 ハルカ!」 「なあに?」 「ありがとうな。」 ハルミ 050819
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