『アニメAG第97話の隙間』1(051016)


★このお話の簡単な説明を…★

このお話は、ポケモンアニメAG第97話
「グラードンVSカイオーガ!(前編)」のCM明けの辺りの、
アニメの隙間部分を描いたものです。
このお話を見たことが無い方のために、お話の流れを簡単にご説明します。


ロケット団との戦いの末、海を漂流していたサトシたち。
そこへ現れた潜水艦。
助かった! と思ったのも束の間、それはマグマ団のものだった。
潜水艦はマグマ団の海上基地へと向かう。
そうして、捕らえられてしまったサトシたち。

サトシたちはマグマ団のボス・マツブサと対面することに。
マグマ団は、グラードンを操ることのできる
”あいいろのたま”(以下”藍色の珠”)を所持していた。
しかし、肝心のグラードンは敵対するアクア団の手の元にあるという。
これから2つの集団はモンス島へ向かい、面会することになっている。

丁度そのころ、アクア団幹部のイズミによって、
マグマ団が捕獲していたカイオーガが解き放たれた。
それがきっかけで大きな揺れが生じるマグマ団海上基地。
藍色の珠がマツブサの手を離れる。
ピカチュウはそれを、グラエナの攻撃をかわしてキャッチする。
ところが藍色の珠の持つ霊妙な力によって、
珠はピカチュウの体内に自ら取り込まれていった。

揺れは続く。
倒れたピカチュウを抱きかかえて、
サトシ達は海を見下ろせるデッキまで逃げてきた。
しかし、そこへまた大きな揺れが。
サトシとピカチュウをデッキに残したまま、
ハルカ、マサト、タケシが海に投げ出されてしまう。
遅れて自分も飛び込もうとするサトシ。
しかし、その横っ腹に、ホムラのグラエナが突っ込む!
デッキに吹き飛ばされるサトシとピカチュウ。
こうして2人は、マグマ団に再び捕らえられてしまった。

このままでは基地は沈没してしまうので、
マグマ団は全員、ヘリに乗り込む。
そのままモンス島へ行こうというのだ。
サトシとピカチュウを連れたホムラも、
他の団員と一緒にヘリへ。
お話はここから始まります。。。


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「…マツブサ様は?」
「すでに御搭乗され、隊長をお待ちです。」

ホムラが問い、側に居た団員がすぐに返答する。
騒ぎがあったものの、よく統率されているマグマ団の者たちは
顔色ひとつ変えずにテキパキと離陸の準備を進めていた。
それを確認して、ホムラは指示を下した。

「よし。 すぐにモンス島へ向かえ。」
「はっ!」


ばりばりばり…と、一層プロペラの音が激しくなるのを、
サトシは人事のように聞いていた。
頭の中では、色んな考えがグルグルと渦を巻いている。

タケシたちと離れてしまったこと、
自分がマグマ団の手の内にいること、
そして…

藍色の珠を体内に取り込んだ…
―いや、むしろ取り込まれてしまったと言った方が正しいかもしれない―
…ピカチュウ……。

今は気を失っているけれど、
目を覚ましたとき、果たして自分の知っているピカチュウに戻ってくれるのか、
サトシには確信が持てなかった。

自分を見ていない目と、額とお腹の不思議な紋様。
さっき見たピカチュウは、とても見るに耐えない姿だった。
藍色の珠が出てこない限り、もしかしてピカチュウはずっとあのままなのか…?
自分の知らない、そして自分のことを知らないピカチュウに…。
そんな恐ろしい考えが、サトシを一層混乱させた。


「おい。」

突然声をかけられ、はっとして顔をあげると、
一人の男性マグマ団員がサトシを見下ろしていた。
チラリと周りを見てみるが、さっきの幹部らしき団員の姿は見えない。
マツブサのところに行ったのだろうか。

「モンス島での話し合いの間、
お前には大人しくしていてもらおう。
そのピカチュウを渡せ。」

そう言いながら手を伸ばす団員に対し、
何か抗議の言葉でも返せば良かったのに、
今のサトシは頭がすぐに回らず、すぐにそれができなかった。
その代わりに反射的に団員の手の先から
ピカチュウを思い切り遠ざけた。

自分の手が、とても冷たくなっているのにその時気付いて、
サトシは不思議に思った。
それに手だけでなく、まるで吹雪の中にいるときのように、
ガチガチと体中がぎこちなかった。
サトシは、自分がとても緊張しているのに、ここで初めて気が付いたのだ。

どうして。
今まで、色んな状況に立たされてきたけれど、
こんなに体が言うことを聞かなくなるなんてことはなかった。
なのに今はどうして…?

ピカチュウの暖かさが、じんわりと気持ちいい。
その小さくて儚げなぬくもりは、
今の自分はそのお陰で生きているのではないかとさえ思わせた。


黙りこくったサトシを見て、団員はふぅっとため息をつくと、
「来い」とだけ言って、ヘリの奥へと進んで行った。
その場にいた他の団員たちは、作業の手を休めることは無かった。
しかしサトシは、彼らから自分に
ものすごい監視の目が向けられていることを痛いほど感じていた。
ついていかないという選択肢は、サトシには残されていなかった。
ハルミ 051016

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