「わああぁぁぁぁっ!!」 「う、ぐ……!!」 ばりばりばりばりばり…ッ!! 痛々しい火花の散る音が廊下に響き渡る。 ドサリ、と、サトシと団員が床に倒れこむ音もそれに重なった。 ぴょん、とピカチュウが身軽にサトシの腕から抜け出す。 そして十分に電撃を放ったあと、 放電を止め、混乱したままたたたた…と廊下の更に奥へと走り出した! 「あっ、ピカチュウ! どこへ行くんだ!!」 団員よりはピカチュウの電撃に慣れているサトシは、 素早く体勢を立て直すと、急いで後を追いかけた。 一方、体の痺れが治まらず、まだうずくまったままのマグマ団員は 必死に全身に力を込めて立ち上がると、 ヨロヨロと壁に寄りかかる。 そして壁の小さな突起の部分を触ると、平らだった部分がパカリと口を開いた。 そこには小さな赤いボタンと、簡易マイクがあった。 団員はボタンを押しながら、マイクに向かって上司に現状報告を手短に行った。 「こちら艦内3F、倉庫室A、 例のピカチュウと少年を連行中、ピカチュウが暴走。 ピカチュウと少年は動力室方面へ逃走した模様。 至急応援を頼む!」 「おぉーい、ピカチュウーッ!! どこにいるんだー!?」 ガンガンガンガン、とサトシの足音はけたたましく廊下中に響いた。 右に左に、狭い廊下を走り回るうちに、 サトシはピカチュウを見失ってしまっていた。 (このまま見失ったままじゃまずい…!!) もし、オレよりもマグマ団の方がピカチュウを先に見つけてしまったら…。 そんな恐ろしい思考を振り切るかのように、 サトシはいっそう走るスピードを上げた。 廊下の前方が、光で溢れているのをサトシは見つけた。 部屋があるのだろうかと思い行ってみると、 そこは先ほど見た物置部屋を何倍も大きくしたような、吹き抜けの空間になっていた。 廊下から一歩入った所に柵があって、そこから身を乗り出して見下ろしてみると、 そこではごぅん、ごぅんと、大きな機械が何台も動いていた。 規則正しく騒音を出す機械を、呼吸を整えながら見ていたサトシは、 小さい、けれど今サトシにとってとても大事な、”何かが倒れる音”を聞いた。 柵から手を離し、キョロキョロと周りを見てみると、 吹き抜けの部分を挟んだ、向こう側の渡り廊下に、 黄色いものが横たわっているのを見つけた。 「…ピカチュウ!」 見つけた喜びがこみ上げてくるのを感じながら、 サトシはバッと辺りを見渡して一瞬でピカチュウまでの最短ルートを左右から選び、 すぐさま駆け出した… が、サトシはすぐに足を止めてしまった。 マグマ団幹部・ホムラが、 グラエナを2匹引き連れてサトシの前に立ちはだかっていたのだ。 「…ったく、チョロチョロと動き回って…」 イライラしながら、ホムラは言った。 マツブサの部屋へ向かおうとしているところへ、 先ほどの緊急連絡を聞き、 こうして騒ぎを止めにワザワザやってきたのだ。 サトシたちを海上基地に連れてきてしまってから、 ホムラはこれ以上マツブサの前で失態を犯してはならないと必死だった。 それなのに、後から後から、この少年は自分を振り回すようなことばかりする。 「自分の立場ってのが、よくわかってないようだな、小僧…!」 ホムラが怒るのも無理は無かった。 しかし、この少年はどこまでもホムラの考えに反する言動ばかりする。 「そんなの知るか! いいからそこをどけ!!」 ホムラの怒りは頂点に達しようとしていた。 「…もう一度言おう。」 サッと腕を振った。 「自分の置かれている状況と、」 後ろに控えていたグラエナが、その合図で前に飛び出した。 「ついでに口の利き方を、」 サトシはビックリして身構える、が、遅かった。 「思い知れ!!」 ガァン! ガシャーン!! 壁にぶつかる音と、 壁にぶつかったものが床に落ちる音が 吹き抜けのその空間全体に響き渡った…。 ハルミ 051017
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