『もう一つのアニメAG第54話』1(060318)


ざっ、ざっ、ざっ…

活火山のふもとという土地柄らしく、4人の足元から火山灰の粉が舞う。
"映画の一場面になりそうだな"、と誰かがつぶやいた。
その通り、4人のまわりにはキレイに人っ子一人いなかった。
舞う火山灰が雰囲気を盛り上げてくれるスモークというわけだ。
"ほんと、私たち以外、誰もいないわね…"
何気ないこの言葉は、彼らが今、足を踏み込もうとしている場所が
非常事態に陥っているという事実を再確認させるのに十分だった。

少しずつ、目の前に、小さな建物が現れてくる。
入り口に、看板がある。
"ロープウェイ乗り場"と書いてあった。
「…あそこだな。」
赤い帽子の少年がつぶやいた。


本来なら、ここはえんとつ山の頂上へ行くための交通手段として
観光客が楽しそうに出入りしていい場所のはずだ。
でも、それを見つめる彼らの表情は違っていた。
不安と、緊張と、…少しの恐れが見て取れた。

乗り場が完全に見える位置に来ると、
なんとなく、彼らの歩みは止まってしまった。
遠目に眺める、ロープウェイ乗り場。
今、ロープウェイは動いていない。
静かだった。
…昼間に動かないロープウェイを見て、
ますます、4人はただならぬ雰囲気を感じてしまった。


「ねぇどうする? サトシ。」
ハルカが、聞く。
「…ぼく…恐いよぉ…。」
マサトがハルカに引っ付きながら、弱弱しく言った。
「誰がこんなことをしているかまだ分からないって
ジョシュウさん、言ってたからな…。
ここは慎重にいったほうが良いぞ。」
タケシが眉間にしわを寄せて唸った。
そしてサトシは
「…行こう!」「ぴっかぁ!」
足元から這い上がってきそうな恐怖を、
払いのけるように元気よく答えると、
地面の灰を蹴り上げて、走り出した。







これより少し前、えんとつやまのてっぺんが視界に入るようになった頃に、
サトシたちは一度オダマキ博士に電話をしていた。
しかし博士はちょうど留守にしていて、
代わりに電話に出たのはジョシュウだった。

―trrrrr…trrrrr…ガチャ。

「あ、オダマキ博士ですか?」

「ん? その声はサトシくんだね? 僕はジョシュウです。
オダマキ博士は今、出かけてるんですよ。
何か博士に用事かな?」

「そうですか。
いや、特に用事があったわけではないんです。
オレたち、今、えんとつやまの麓辺りまで来てて、
だた、それを博士に伝えようかなぁって思っただけで…。」

「えんとつやま…? ふむ…」

「? どうかしたんですか?」

「あぁ、なんでも………いや、サトシくんたちなら…。
ねぇサトシくん、実力あるトレーナーと見込んで、
頼みごとを聞いてくれないかな?」

「頼みごと…?」

「うん。 実は…」






そーっと、サトシは建物の入り口から、中の様子を覗いてみる。
ロープウェイのりばの内部は、ガランとしていた。
人の気配は無い…
いや、しかしそれはおかしいはずだ。
本来なら、ここにはせめてロープウェイを動かす作業員がいるべきだ。
では、彼らは今、どこにいるのだろう?

誰もいないのを確認してから、
サトシはそろそろと建物の内部に入っていく。
後に、ハルカ、マサト、タケシが続く。
タケシは後方も併せて注意を払っている。

こうしていると、まるで探偵の尾行調査をしているようだが、
4人がゾロゾロとつながっているので探偵のようなクールさはない。
むしろ何かに怯えている様子が、少し滑稽だった。
お客用の通路は単純にゴンドラへ続いているので閑散としており、
特に異常は見当たらない。
サトシたちは、「関係者以外立入禁止」と書かれた扉の方へ向かった。


かちゃ…


高い金属音が、控えめに部屋に響き渡る。
ぎぎぎ…と音が立ちそうなくらいゆっくりと扉を開けて、
サトシたちの顔がひょこっと現れる。
…誰も、いない…?
いや、よく耳をすませてみると…

…んぅー…んん…っ。

くぐもった声が聞こえてくる。
予想していた"敵"がいないのを確認すると、
サトシたちはこの声の主を探す。
まるで声の主が誰であるかを、すでに知っているかのように。

机の下、ロッカーの中、給湯室…
そして、物置の扉を開けて、
…見つけた!




「ありがとうございます!」
「本当に助かりました!!」
口のガムテープを剥がしてあげると、2人の作業員はすぐに礼を言った。
「ご無事で良かったです。」
タケシが作業員の手にかけられたロープをほどきながら、
丁寧に受け止める。
「一体、誰がこんなことを…?」
サトシが深刻な顔になって、作業員に聞いた。
2人は、お互い顔を見合わせ、「あのう…」「実は…」と、話を切り出そうとした、

その時!


ピー! ピー! ピー!!

「きゃぁぁっ!」
「わぁぁっ!?」


突然、電子音が部屋中に鳴り響き、
ハルカはびっくりして悲鳴の声を上げ、
そのハルカの声に他のメンバーが驚いた。
音の発信源は、無線のスピーカーのようだ。
その向こうから、聞いたことのある、気の強い女性の声が聞こえてきた。

『ちょっとちょっと、ちゃんとコレ、動いてんでしょーね!?
まさか壊れてる、なんて言ったら、張り倒すわよ!』
『は、はい。これで麓側の制御室とつながってると…。』
『ウソじゃないな? ムサシは怒らせるとこわーいんだぞ。』
『ほ、本当ですっ!』
作業員らしい人たちの怯えた声と、
こちらもまた聞いたことのある男性の声が
後に続いて聞こえてきた。

「なんなんだ?」
サトシがそう呟いたとき、
スピーカーから、お馴染みのあのBGMと共に、例の口上が始まった。

『なんなんだ?と聞かれたら…』

   …!(全員)

『答えてあげるが世の情け』

   …このセリフは…(サトシ)

『世界の破壊を防ぐため』

   …やっぱり…(ハルカ)

『世界の平和を守るため』

   …やっぱり、だよねぇ…(マサト)

『愛と真実の悪を貫く』

   …ぴか…(ピカチュウ)

『ラブリー・チャーミーな敵役』

   …あいつらもよく飽きないなぁ…(タケシ)

『ムサシ』
『コジロウ』
『銀河をかけるロケット団の二人には』
『ホワイト・ホール。白い明日が待ってるぜ』
『にゃーんてにゃ☆』

『…ってさっきから、にゃーんかボソボソうるさいのにゃー!』
ニャースが決めポーズをしたらしい後、そう叫んだ。
『そんなことより、』
ムサシの声だ。
『そうそう、今一番しなくちゃいけないことは…』
こちらは、コジロウ。

すぅ、と二人が息を吸った音が聞こえたかと思うと、
大音量が響き渡る。

『だーれかぁーーー!』
『助けてくれええぇぇぇっ!!』


「ロケット団!!」
あまりの五月蝿さに、サトシたちは耳を塞いだ。

『お? その声はもしかして…』
『ジャリンコ御一行さま?』
『にゃ~、この際ジャリンコピカチュウでもいいから、
助けてほしいのにゃーー!!』




   To be continued...
ハルミ 060318

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