オダマキ博士の助手に、ある"頼み事"を任されたサトシ達は、 えんとつやまのふもとのロープウェイ乗り場で、縛られた作業員を見つけた。 彼らを助け、事情を聞こうとしたその時、 突然ロケット団からの無線が入ってきたのだった。 「つまり、こういうことだな。 おまえたちは、オレのピカチュウを狙おうと、 ロープウェイで頂上側へ先回りして行ったのだけれど、」 「運悪く、そこで謎の集団にはちあわせ、 作業員の方共々、監禁されていた、と。」 「そして今、その集団が出払っている隙をついて、 こうして無線で私たちのいるふもと側と連絡を取ることに成功した…」 『うんうん。』 『そうそう。』 『その通りなのにゃー。』 サトシ、タケシ、ハルカが確認をし、 スピーカーから相槌の声が響く。 そして、3人の盛大な溜め息と共に、 「あいかわらずマヌケだなぁ」 というマサトのきついツッコミが入る。 『ま、マヌケ!? …コジャリボーイ、言ってくれるじゃなーい!? アンタなんかみたいなジャリジャリした半人前にはねー、 上司のために必死になって働く私たちオトナの大変な気持ちなんて ミジンコっぽっちも分かるわけないのよっ!!』 「な、半人前とかミジンコとかって言うなー! ボクだって立派に旅を続けてるんだぞー!! もう一人前だい!!」 『へへーんだ。 半人前のあんたには、お子様ランチがお似合いよーっだ! オムライスに旗でも立ててもらえばー?』 「くぅ〜〜〜っ、ばかにしてー!! そっちだってなぁ、いっつも失敗してふっとばされてて、 "一人前"の大人のくせに、学習能力が無いんじゃないのー? デパートで『がくしゅうそうち』を買ってくればぁ〜? あ、でも貧乏だからお金が無いんだっけぇー。」 『ぐさーっ!! 言ったわねぇーっ!?』 売り言葉に買い言葉。 口が達者な2人だからこそ、ケンカはなかなか止まらない。 「こらマサト、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」 『そうだぞムサシ! ここは穏便にコトを運んでだな、助けてもらえるようにお願いを…』 ハルカとコジロウが間に入って、一時休戦。 「話を元に戻そう。」と、タケシが切り出した。 「さっそくだが、ムサシ、コジロウ、ニャース。 頂上側で、ソライシ博士という方を見なかったか?」 『…は?』『…へ?』『…にゃ?』 「! タケシ…?」 突然のタケシの質問に、ロケット団側ももちろん、 サトシたちも呆気に取られていた。 「実はさっき、オダマキ博士の助手さんと電話をしたんだ。」 『助手?』 『あぁ、あの、緑色の髪で、メガネをした…』 「そう。 その助手さんの話によると、 最近、ソライシ博士という隕石について研究をしている人が、行方不明になったそうだ。 いなくなる直前に、ソライシ博士の研究室に、怪しい集団が出入りしていたのが目撃されている。 そのことから、博士は彼らに誘拐された、という見方が強まっている。 残されていた博士の研究資料などから、 ソライシ博士は現在、えんとつ山付近にいる可能性が高いらしい。 オレたちは、博士を探して、救出してほしいと頼まれて、ここまで来た。」 『なるほどぉ〜。』 『そういうことだったのね。』 『でもニャーたちはそんな博士、見かけてないのにゃ。』 「そうか…。 …そういえば、お前たちを監禁したのは、一体誰なんだ? 今は、博士に関する情報が、できる限りたくさん欲しいんだ。 何かヒントになるかもしれない。」 タケシの真面目な発言は、 さっきまでの口ゲンカの雰囲気を一掃し、 その場にいた全員の気を引き締めるのに成功した。 そして少しの間を置いて、ロケット団の返事が聞こえてくる。 しかし、その声は申し訳なさそうな色を含んでいた。 『じ、実は…』 『あまりにそいつらが手際よく私たちをグルグル巻きにしたもんだから…』 『はっきり言って、あんまりよく見えなかったのにゃー。』 ………がくり。 そんな音が聞こえてきそうなくらい、 タケシたちは大きく首を項垂れた。 「じゃ、じゃぁ、何か特徴とか、どんなことでも構わないから…。」 タケシが食い下がる。 『ん〜、特徴、特徴ねぇ…』 『あ。そういえば、目隠しをされた時、 一瞬だけ、奴らの着ている服が見えたんだけど、 その服、見覚えがあるような…。』 「ほ、本当か!?」 『コジロウ! それは誰の服だったのにゃ?』 『えぇとあれは…』 「マグマ団、ではないかと思われます。」 思わぬところから声が出てきて、一同は驚いた。 声の主は、ふもと側の作業員の1人だった。 彼は説明を続けた。 「私たちを閉じ込めた集団が、赤い服を着ていました。 ここホウエンで、赤装束の軍団と言ったら、マグマ団以外にありません。 ですから、恐らく頂上側も同じように…。」 「なるほど、マグマ団か…。」 「あいつら…!」 今まで曖昧だった"敵"が、やっと分かった。 マグマ団。 世界の陸地を増やそうとしている奴らだ。 ソライシ博士を誘拐した理由はいまだ不明だが、 とにかくマグマ団が動いているということは、 何かしら良からぬことを企んでいるということに違いない。 「タケシ、早くソライシ博士を見つけたほうが良さそうだな…。」 「あぁ。でないとマグマ団の奴ら、何をし始めるか分からない。 急いで上へ行こう!!」 色んな窮地を経験してきたサトシとタケシは、判断が早い。 その2人に、 「えっ、じゃぁ、ロープウェイを使って上へ行くの?」 と、マサトが少し楽しそうに尋ねた。 『残念ながら…、それはできなさそうです。』 頂上側の作業員が、控えめに答えた。 「できない? どうして?」 思わぬ返事に、ハルカがビックリした。 『今、確認してみたら、全ての電源が入りませんでした。 おそらく、メインバッテリーをやられたんだと思います。』 「…てことは…」 「ロープウェイはあきらめて、 歩いて山を登るしかないな。」 「そんなぁー。」 山を歩いて登る…。 旅をし続けてきたから、体力に問題はないけれど、 それでも足がクタクタになってしまうことは容易に想像できる。 ハルカはその場にへたりこんでしまった。 その横で、ふもと側の作業員が、 マイクに向かって頂上側作業員に話しかけた。 「おい、メインバッテリーがやられた、というのは本当か?」 『あぁ…たぶん、私たちが捕まってしまった後に…。 ふもと側は違うのか?』 「あぁ、それがどこも異常は無さそうなんだ。 確か、マグマ団は私たちを捕まえた直後に、 『緊急命令が入った』とか何とか言っていたから、 何もしないまま出て行ったのかも…。」 「だからふもと側は、オレたちが来たとき、マグマ団はいなかったのか…。」 作業員たちの話を聞いて、サトシが漏らした。 タケシが、聞く。 「メインバッテリーは、ふもと側と頂上側、両方にあるんですか?」 『あぁ、そうだよ。 安全のために普段は両方共動かすんだけど…。 一応、片方だけでもロープウェイは動くんだ。』 「それじゃぁ、ロープウェイで上へ行くことができるんですか?」 作業員のの言葉に、ハルカが元気を取り戻した。 『あ、あぁ…。でも今は…』 「やったぁ〜!」 大喜びのハルカに、タケシが口を挟む。 「いや、でも今はロープウェイを使ったら、 マグマ団に気付かれてしまうかもしれないから、 どのみち歩いて登るしかないんだよ。そうですよね。」 『あぁ、その通りだよ。』 「えぇ〜っ、 博士を見つける前に、ヘトヘトになっちゃうかも…。」 『作業員用のルートを使うと良いと思います。 荒れた山肌を歩くよりは、いくらか楽だと思いますから。』 また元気を失ったハルカを気遣って、作業員がフォローの言葉をかけた。 「分かりました。ありがとうございます。」 サトシはお礼を述べると、 次にマイクに向かって言った。 「…というワケだ、ロケット団。 オレたちは今からそっちへ行く。 じゃーな!」 バタバタバタ…とサトシたちの足音がスピーカーの向こうに消えていった。 「………。」「………。」「………。」 頂上側の作業員2人は、メインバッテリーの修理に取り掛かり始めた。 一方で、ロケット団たちは取り残されたように、その場に佇んでいた。 「………『じゃーな!』…だって。」 「ニャーたちを助けに行く!とは言ってなかったのにゃ…」 「つまりオレたち、これからどうすればいいワケ…?」 「分かんにゃいのにゃ。」 う〜ん…、と考え始めたロケット団。 と、そこに… "〜〜〜っ!" 「ん?」 「どうした? ムサシ。」 「今何か、入り口の方で声がしたような…」 「気のせいじゃにゃーか?」 「いーや、確かに聞こえたわ。 私、ちょっくら行って、様子を見てくる!」 「あっ、ムサシー! 置いてくにゃー!」 「え、あ、ちょっと、ニャースまで! …ったくもう………。」 かけだしたムサシとニャースの後を、 しぶしぶ、コジロウもついていくことにする。 「でも…」 コジロウがつぶやいた。 「オレが見たあの服、本当にマグマ団のだったっけ…?」 To be continued... ハルミ 060513
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